顔面神経麻痺に対する鍼治療について

2025.10.27

顔面神経麻痺に対する鍼治療について
目次
ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

こんにちは、豊中市のほまれ鍼灸院の富本です。

この記事では顔面神経麻痺に対する鍼治療について解説します。

主に顔面神経麻痺に対して鍼をする際に重要なポイントや、実際の施術の様子についての内容となっていますので、顔面神経麻痺の詳細な分類などについては、日本顔面神経麻痺学会のHPなどをご参照ください。

顔面神経麻痺かな?と思ったら、まずはすぐに耳鼻科や脳神経外科を受診することが大切です。

ガイドラインにて推奨されているステロイド治療は発症してから少しでも早く治療開始することが大切です。

ですので、この記事では、すでに脳神経外科や耳鼻科を受診して治療した結果、後遺症が残ってしまったり、顔面神経麻痺で最も推奨されているステロイドによる治療が効かない、もしくは糖尿病などで不可の場合の方に読んでいただきたい記事になります。

顔面神経麻痺に対して鍼治療という選択肢があるということを多くの方に知っていただければ幸いです。

顔面神経麻痺とは

顔面神経は脳から出る7番目の神経で、主に表情筋の運動を支配しています。

笑う、怒る、泣く、といった感情は主に表情によって表現されていますが、この際に眉毛を吊り上げたり、眉間に皺を寄せたり、口角を上げたりする動きを行っているのが表情筋です。

顔面神経が麻痺すると表情筋を動かすことが困難となり、特有の顔面を呈するようになります。

顔面神経麻痺の表情の特徴

顔面神経麻痺の罹患者数

顔面神経麻痺は日本国内において年間6万5000人以上が発症しています。

これは人口の10万人あたり50人に相当します。

70〜80%近くの方は治癒するとされていますが、20%近くの方に何らかの後遺症が残ると考えられているので、概算すると毎年1万人近くの顔面神経麻痺の後遺症患者さんが増えている計算になります。

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

日本においてはビート武さんが罹患したことが有名ですが、若い人からするとジャスティンビーバーが罹患したことの方が有名かもしれませんね。

顔面神経麻痺の症状

障害される顔面神経のレベルにもよりますが、代表的な症状は以下の通りです。

顔面神経麻痺によって出現する代表的な症状

  • おでこの皺寄せ困難
  • 眉間の皺寄せ困難
  • 目を閉じれない
  • 鼻を動かせない
  • 口を閉じれない
  • 笑顔を作れない
  • 頬を膨らますことができない

顔面神経は表情筋の運動を支配しているので、上記のような表情筋を使った顔面の運動が困難となります。

また、顔面神経は舌の前の味覚も支配していることから、人によっては食べ物の味が感じにくくなったりと様々です。

それぞれの表情筋の麻痺の程度は、柳原法と呼ばれる顔面神経麻痺の表情筋のテストによって麻痺の程度を評価します。

顔面神経麻痺による表情筋の麻痺の評価

顔面神経麻痺の原因

顔面神経麻痺には中枢性と抹消性の主に2つのタイプが存在しますが、ここでは鍼治療の治療対象となる抹消性顔面神経麻痺について解説します。

抹消性顔面神経麻痺は主にベル麻痺ハント症候群の二つに分類されます。

ベル麻痺ハント症候群
原因ウイルスヘルペスウイルス水痘帯状疱疹ウイルス
分類末梢性末梢性
特徴表情筋の麻痺など耳裏の痛み、湿疹

どちらもウイルス感染が原因となります。

体内に潜伏していたウイルスが、何らかのきっかけによって活性化して、側頭骨の中の顔面神経管と呼ばれる細い管の部分で顔面神経を圧迫した結果、発症します。

詳しくはわかっていない部分もありますが、基本的には免疫力が低下している時、つまり疲れが溜まっている時などにウイルスが活性化して発症します。

顔面神経麻痺のほとんどが朝起きた時に急に顔面が動かなくなったとコメントされますが、人によっては、発症の数日前に前兆として、耳の裏あたりに痛みや違和感が出現することもあります。

顔面に出現する麻痺の症状については大きく変わりませんが、ハント症候群の場合は、耳の裏あたりに痛みが出たり、耳に湿疹のようなものができることも少なくありません。

その他、東洋医学の世界では顔面が冷えることによって発症するとも言われており、顔面が冷たい風に長時間晒された結果発症するとも考えられています。

いずれにせよ顔面神経麻痺においては、治療と予防どちらの観点から見ても顔面を温めるようにした方が良いのは確かなようです。

鍼治療の効果が期待できる顔面神経麻痺

鍼治療の効果が期待できる顔面神経麻痺は主に末梢性の顔面神経麻痺です。

脳梗塞など、脳に器質的な原因があって発症する中枢性の顔面神経麻痺に対しては直接的な効果を期待することが難しいと考えられています。

具体的にはおでこにシワを寄せることができるタイプは中枢性の顔面神経麻痺になるので、鍼治療では効果を期待することが難しくなります。

このタイプは先述した通り、頭の骨の中で顔面神経が狭い道を通る際に、何らかの原因によって神経が圧迫されることによって神経に虚血が起こり発症するとされているので、鍼治療によって神経周囲の炎症を抑え、血流の回復を促進することによって、顔面神経麻痺の症状の緩和効果が期待できます。

顔面神経麻痺に対する鍼治療の現状

顔面神経麻痺の診療ガイドラインにおいて、現在鍼治療は推奨度B(弱く推奨する)と記載されています。

これは鍼治療によって明らかに効果が見られる線維筋痛症や頭痛などと同じです。

弱く推奨すると聞くと、あまり良い印象を持たない人も多いみたいですが、『弱く推奨する』は強く推奨するの次のグレードであり、そのほかは弱く推奨しないと強く推奨しないです。

弱く推奨するは、強く推奨するに分類されている治療法で効果がみられなかったり、何らかの理由によって治療ができない場合などに行う価値があるとして推奨されている治療です。

顔面神経麻痺に対する鍼治療に関する論文では、発症から一年以上が経過した後遺症の場合であっても顔面部の表情筋の動きが再現される反応も見られており、試してみる価値のある非常に有益な治療であると分類されています。

以下は顔面神経麻痺のリハビリテーション指導士でもある鍼灸師の中村まり先生の論文です。

発症から1年3ヶ月が経過した左顔面神経完全麻痺の後遺症に対する鍼灸治療の一症例

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

筆者も先日、中村先生が講師を務める顔面神経麻痺の講習会に参加してきました。

顔面神経麻痺の講習会に参加した話

顔面神経麻痺に対する鍼治療についての講習会に参加してきました。

顔面神経麻痺で鍼をするツボ

鍼治療は基本的に顔面神経の通り道である耳の裏の周囲と、顔面神経に支配される表情筋を狙って刺鍼します。

顔面神経は側頭骨から出てきてから主に側頭枝、頬骨枝、頬筋枝、下顎枝、頸枝の五つの枝に分岐します。

(画像は看護roo様のサイトよりフリー画像として拝借しています。)

顔面神経麻痺でも、人によって主に顔面の上方(おでこ、目の周辺)に麻痺がある場合と、顔面の下方に麻痺がある場合とに分かれるので、表情筋のテストを実施して最も強く麻痺が残っている部位を中心に鍼をします。

以下は、当院で顔面神経麻痺に対して施術する場合によく使用するツボの一例です。

必ず用いるツボが寛骨、えい風の2つ。

麻痺が生じている部位によって、陽白、太陽、さん竹、頬車、地倉などのツボを使用します。

寛骨

側頭骨の乳様突起の後方あたりに存在するツボです。

主に顔面神経麻痺、耳鳴り、めまい、各種の頭痛などに対して効果が期待できるツボです。

鍼をすると、後頭部や頭頂部〜側頭部にかけてズシンと響くような感覚が出現します。

えい風

顔面神経が頭蓋骨から表面に出てくる部位にあるツボです。

側頭骨の乳様突起の前方で、ちょうど耳たぶをめくった部分に存在します。

顔面神経麻痺、耳鳴り、めまいといった顔面神経や内耳神経関連の症状に対して頻繁に用いるツボです。

陽白…おでこのしわ寄せができない

眉毛の上に存在するツボです。

顔面神経の側頭枝に問題が起きており、額の皺寄せが困難となっている場合はこのツボやおでこの生え際などに刺鍼します。

皺眉筋…眉間の皺寄せが困難な場合

眉毛の間にシワを寄せることができない場合は、皺眉筋を狙って鍼をします。

さん竹と呼ばれるツボが存在します。

四白…目の開閉が困難な場合

目の開閉が困難な場合は、四白や太陽と呼ばれるツボに鍼をします。

四白(しはく)は目の下側で眼輪筋のあたりに存在します。

太陽は目尻と眉尻の間から指一本外側に存在しており、顔面神経麻痺をはじめ、片頭痛や顎の痛みなどの治療においても頻繁に使用されるツボです。

眼球は瞼を閉じることによって、潤いが与えられているので、顔面神経麻痺によって目を閉じることができなくなると眼球を外気から守ることができなくなり、大変危険です。

地倉…口の開閉が困難な場合

口を閉じることができなくなると、飲み物を上手く飲むことができなかったり、口笛を吹くことができなくなったりします。

口のすぐ外側にある地倉や大迎といったポイントに鍼をします。

以上が顔面神経麻痺に対して鍼をする際のポイントです。

顔面神経麻痺に対して鍼をする際に絶対にやってはいけないこと

顔面神経麻痺に対して、これまで多くの鍼灸院では、電気鍼治療を行なっておりました。

電気鍼とは、筋肉に刺した鍼に電気を流して筋肉を他動で動かす治療方法です。

顔面神経麻痺によって拘縮した筋肉の緊張の緩和に有効と考えられ、これまで多くの鍼灸院で実施されていたこの手法ですが、現在では、顔面神経麻痺の後遺症の一つである病的共同運動を引き起こす可能性があるとして、行うべきではないと考えられています。

こういった観点から当院では、顔面神経麻痺に対して表情筋に対する鍼通電療法は実施していません。

豊中市で顔面神経麻痺に対する鍼治療なら

豊中市で顔面神経麻痺に対する鍼治療ならほまれ鍼灸院にご相談ください。

豊中市のほまれ鍼灸院

ほまれ鍼灸院は鍼専門の鍼灸院です。

東西両方の観点から、深鍼治療、トリガーポイント鍼治療、電気鍼治療など、症状に合わせて様々な手法の鍼治療を使い分けて施術を行います。

待合スペース

顔面神経麻痺は放置していても大部分は勝手に治ると考えられており、確かに〜70%弱は自然に治癒するとの報告もありますが、逆に言えば残りの30%は治癒せず、場合によっては後遺症が残ることもあります。

顔面神経麻痺は痛みや運動制限はもちろんですが、何よりも見た目(容姿)上の問題があります。

特に女性の場合は(男性ももちろんですが)、顔面神経麻痺によって表情に異常が残った場合は、人生が狂ったと考えるような人も少なくないようです。

当院では鍼治療によって、そのように深く悩まれている一人でも多くの方の悩みを解消し、QOLを向上させるベく日々研鑽に励んでいます。

以下に顔面神経麻痺に対する鍼治療の効果などに関する論文のリンクを貼っておきます。

抹消性顔面神経麻痺に対する鍼灸治療の効果と現状

上記の論文などの結論を参考にして当院でも鍼治療を実施しています。

顔面神経麻痺でお悩みの方は是非一度ご相談ください。

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

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