線維筋痛症に対する鍼治療について

2025.09.16

線維筋痛症に対する鍼治療について
目次
ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

こんにちは、豊中市のほまれ鍼灸院の富本です。

鍼灸治療は線維筋痛症に対して、慢性疼痛診療ガイドラインに『推奨度2(弱)施行することを弱く推奨する』と記載されています。

弱く推奨すると聞くと、あまり効果的でない印象を抱く人も多いかもしれませんが、診療ガイドラインに記載されることは非常に重要な要素であり、他の記載されていない整体や療術法などとは有用性が全く異なります。

線維筋痛症を始めとした慢性疼痛に関する分野は現在も日夜研究が進められている分野であり、まだまだこれから明らかになってくる部分も多くありますが、日常診療として日頃から慢性疼痛の患者様と日々関わらせていただいている筆者の実感としては慢性疼痛に対して鍼治療ができることは非常に多くあると実感しています。

この記事では、線維筋痛症に関する基本的な内容から、実際に鍼をする際の目的や期待できる治療効果などについても解説しています。

情報の引用元は主に慢性疼痛に対する鍼治療の有用性に関する研究や論文、慢性疼痛に関するセミナーに参加した際の情報や筆者が開業している自身の鍼灸院において経験した内容となります。

少し長い記事となりますが、線維筋痛症でお悩みの方にとって有益な記事となっていますので、是非最後までお読みください。

線維筋痛症に対して実際に当院で行っている具体的な施術内容について知りたい方は、三つ目の段落『線維筋痛症に対する鍼治療の実際の様子』まで飛ばしてお読みください。

線維筋痛症とは?

線維筋痛症は1990年に診断基準が設定された比較的新しい病気です。

首〜肩〜肩甲骨周辺、背中〜腰など主に身体の背面部分に慢性的に強い痛みを抱えている状態を指します。

診断基準としては、以下の通りとなります。

線維筋痛症の診断基準

  • 3ヶ月以上続く広範囲な痛み
  • 全身の特定圧痛点18箇所のうち11箇所以上に痛みがある

上記二つの基準に加えて、疲労感や睡眠障害などの症状の有無を総合的に評価して診断されます。

線維筋痛症の原因

現在のところ明確な原因は特定されていません。

主にストレスや外傷などをきっかけとして、脳の痛みを感じる情報処理機能に異常が生じた結果、発症すると考えられています。

長期間に渡って痛みを感じ続けたが故に、痛みを感じる際に働くべきブレーキが効かなくなり、弱い刺激においても非常に強い痛みを感じるようになったり、通常では痛みを感じない程度の弱い刺激であっても痛みを感じるようになっている状態が線維筋痛症の特徴です。

人間が感じる痛みの種類は一つではなく、大きく分けて3つの種類があります。

  • 侵害受容性疼痛
  • 神経障害性疼痛
  • 痛覚変調性疼痛
痛みの種類

侵害受容性とは、その名の通り、組織が外部からの刺激によって侵される状態を指しており、主に打撲や捻挫といった外傷性の痛みのことを言います。

神経障害性疼痛は、神経が痛みを発している状態で、代表的な例を挙げるとヘルニアなどが当てはまります。

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

椎間板や骨が加齢によって変形した結果、周囲にある神経を圧迫してヘルニアが発症します。

この場合、痛みを感じているのは骨によって圧迫されている神経ですので、ヘルニアは神経障害性疼痛となります。

線維筋痛症はこのうちの心因性=痛覚変調性の痛みであると考えられており、多くの場合、患者は鍼灸院に行く前に整形外科や神経内科、場合によっては心療内科などを受診しますが、画像検査において異常が見つかる場合はほとんどありません。

画像検査において痛みが見つかるのは主に、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛であり、痛覚変調性の痛みは痛みを感じるメカニズムが異常をきたしているが故に、原因不明と判断されてしまう場合がほとんどです。

必然的に治療も原因療法や根治療法はなく、主に薬物療法中心となります。

薬物療法としては、神経障害性疼痛に有効なリリカや、抗うつ薬などが用いられます。

これらの薬は有効な治療法ではありますが、患者によっては効果が得られにくかったり、薬物依存性や副作用の問題などがありますが、最近になって有効な可能性があると注目されているのが鍼灸治療です。

線維筋痛症に対する鍼治療で期待できる効果

線維筋痛症に対して鍼治療を実施する際に期待できる効果には、主に局所的な効果全身的な効果の2種類があります。

局所的な効果

慢性的に緊張している筋肉は、筋肉内の血行が悪くなっており、血流が悪くなって発生する虚血性の痛みを感じる状態となっています。

鍼治療は筋肉の血流を促進する効果が期待できる治療法ですので、慢性的に痛みを抱えて凝り固まっている筋肉に直接鍼を施すことで、これらの虚血性の痛みを緩和させることが可能です。

線維筋痛症を慢性的に罹患している場合、『筋肉が緊張することによって、筋肉内の血流が悪くなり痛みを感じ、痛みを感じるが故にさらに筋肉が緊張して虚血性の痛みが悪化する』といった慢性痛における負のサイクルに陥っている場合が非常に多いので、それぞれの筋肉に鍼をすることで、一つ一つの筋肉の虚血状態を緩和する効果が期待できます。

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

虚血性とは、血液が不足しているという意味の言葉です。

『瘀血』といった東洋医学的な概念の言葉ではなく、西洋医学的な言葉です。

線維筋痛症の場合は、主に首〜肩甲骨周囲、背中〜腰の部分に慢性的な痛みを抱えている方が多いので、これらの筋肉に直接鍼を打つことで、筋緊張の緩和が期待できます。

全身的な効果

局所的な効果だけでなく、鍼治療では全身性の痛みの緩和効果が期待できます。

以下は鍼をした際に体内で起こる鎮痛のメカニズムについて報告されている論文です。

鍼鎮痛の生理学的作用機序

手や足、頭に鍼をすることによって、脳からノルアドレナリンやセロトニン、エンドルフィンなどが分泌されることが明らかになっており、これらの作用によって全身性の痛みの抑制が期待できます。

これらの物質は元々体内に備わっている物質であり、鎮痛メカニズムであるので、身体に対して極端な副作用の心配なく痛みの緩和が期待できます。

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

局所的な痛みの緩和は軸索反射と呼ばれる反射の作用によって、鍼をしてすぐに効果が現れますが、全身性の効果(下降性疼痛抑制)は鍼通電を20〜30分弱実施することによって効果が現れます。

線維筋痛症に対する鍼治療の実際の様子

ここまでで説明した通り、線維筋痛症に対して鍼治療を実施する場合は局所的な治療だけでなく全身性の治療を実施する必要があります。

具体的に言うと、局所的な治療では、痛みを感じている患部に直接響く鍼を実施して、その部位に存在する筋肉の緊張を緩和させ、筋肉内の血流を改善し、虚血性の痛みを緩和させる方法を行います。

加えて、線維筋痛症をはじめとした慢性痛においては、痛みを感じる脳内サイクルに異常が生じている場合が多く、常に交感神経が優位となっていることがほとんどですので、これら神経内科領域に対する全身性のアプローチも実施します。

具体的には手足や頭といった末端部分に存在するツボを鍼で刺激して、一部の部位に低周波の鍼通電療法を実施します。

以下は当院で行っている実際の頭部や顔面部への鍼治療の様子です。

頭部や顔面部に鍼をしている様子

鍼通電を実施するか否かは、患者それぞれの症状の程度や状態によって判断しますので、一概に全員に対して行う訳ではありませんが、治療開始からしばらくの間は通電を実施した方がより良い効果が期待できる傾向にあります。

体幹部への治療は最も強い症状の部位に合わせて実施します。

側頭筋に対する鍼治療

頭部・顔面部への鍼治療は慢性痛の改善に重要

上記の写真を見て分かるように、当院では線維筋痛症を治療する際は、最も辛い部位に鍼をするのは当然ですが、それ以外に頭や顔面部にも必ず鍼治療を実施しています。

頭部や顔面部に鍼をすることで、脳内からセロトニンが分泌されることがわかっており、これによって、精神的なリラックス効果が期待できることが明らかになっています。

また、それらの効果だけでなく、頭部や手足の鍼に電気鍼治療を実施することで、下降性疼痛抑制と呼ばれる人間の身体に元々備わっている痛みの抑制作用と働かすことが可能となり、複数の効果によって慢性痛の緩和の効果が期待できます。

特に重要と考えられているのが、三叉神経支配の表情筋と、おでこに存在する頭維(ずい)と呼ばれるツボです。

頭維の場所
ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

頭維は東西両医学において慢性痛の治療で非常に重要なポイントです。

東洋医学的には手足の陽経がこの部位に集まるとされており、主に背中や肩の痛みに重要と考えられおり、西洋医学的にはこのツボが存在する前頭前頭野を刺激することによって、脳から鎮痛に必要が物質が分泌されることがわかっています。

また慢性痛で緊張しやすい側頭筋が位置するポイントでもあり、頭痛や顎の痛みに対しても効果が期待できる超重要ポイントです。

当院では、ほぼ全ての患者さんに対して用いるツボです。

当院では上記のポイントに加えて、百会、太陽、外関、脳空などのツボを頻繁に治療に使用します。

それぞれの使用目的を以下に簡潔に記しています。

百会(ひゃくえ)

頭頂部に存在するポイント。

百会

東洋医学的には全ての経絡が合流するポイントとして考えられており、全身の様々な痛みなどに対して用いられる。

太陽(たいよう)

目の外側に位置するツボ。

太陽

緊張型頭痛や片頭痛の治療において非常に重要なポイント。

線維筋痛症の方は首や後頭部、側頭部あたりの鈍痛や頭痛を訴える場合が多く、これらの症状の程度が強い場合、このポイントを使用します。

慢性痛で無意識のうちに食いしばりがあったり顎の筋肉に力が入っていたりする場合は鍼をすると、少し響くような感覚が出現します。

外関(がいかん)

頬骨の下側に存在するツボです。

外関

太陽と同じで、慢性痛の方は無意識のうちに顎の筋肉に力が入っている場合が多く、線維筋痛症の方の中にも夜間の噛み締めや食いしばりが出ている人が少なくありません。

顎の筋肉は慢性痛の治療においてかなり重要で、首や肩が凝った際に歯が痛くなる場合などはこの部位に鍼をすることで痛みが落ち着きます。

脳空(のうくう)

後頭部に存在するツボ。

脳空

頭痛でよく用いられる天柱や風池よりも上方に存在します。

視覚は脳の後頭葉が関与していますが、このツボを通じて、後頭部に刺激を加えることで、目の周囲の痛みや重だるさなどに対する効果が期待できます。

鍼を受け慣れている人であっても、頭のツボに鍼をされたことはない人が多いみたいですが、頭部や顔面部への鍼治療は慢性的な痛みの緩和を期待できる効果がありますので、当院では線維筋痛症でお悩みの方には必ず実施しております。

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

頭の鍼は見た目上は痛そうに見えるかもしれませんが、体幹部への鍼に比べて響きの感覚などは出にくく、稀に少しチクッとした感覚が出ることがあるくらいで、基本的には非常に優しい刺激の鍼治療となります。

豊中市で線維筋痛症に対する鍼治療なら

豊中市で線維筋痛症に対する鍼治療をご検討なら、ほまれ鍼灸院にご相談ください。

豊中市のほまれ鍼灸院
待合スペース

ほまれ鍼灸院は鍼専門の鍼灸院で、深鍼治療、トリガーポイント鍼治療、電気針治療など様々な鍼の手法を駆使して施術を行っている鍼灸院です。

勉強会、研修会、学会などで定期的に技術と知識の研鑽に励んでいる鍼灸師のみが施術を行います。

フィリピンにて慢性痛に関するセミナーに参加してきました。

顔面神経麻痺に対する鍼治療についての学術講習会に参加しました。

阪急豊中駅から徒歩3分で、提携駐車場のサービスも実施しております。

豊中市周辺で線維筋痛症に対する鍼を打ってくれる鍼灸院をお探しなら是非一度ご相談ください。

痛みを長期間抱えていると人間は破局的思考に陥ります。

不安や緊張を感じやすくなり、場合によっては精神的に辛い状態に陥ってしまう場合も少なくありません。

人間の心と体は繋がっており、身体の緊張は精神にも緊張を及ぼします。

治療に関しては身体の緊張部位を鍼治療で緩めることで、少しずつではありますが、痛みを緩和させることが可能です。

線維筋痛症の治療は一朝一夕の治療ではなく、少なくとも3ヶ月以上の定期的な治療が必要となります。

当院の鍼治療では、他院で良くならなかった症状であっても改善することが可能な場合があります。

線維筋痛症において、出現しやすいそれぞれの症状についてブログ記事を更新しています。

実際の治療内容や通院例についても詳細に記していますので、同じ症状でお悩みの方は是非ご一読ください。

緊張型頭痛に対する鍼治療の実際例『30代男性会社員』

ほまれ鍼灸院長 富本 翔太

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