五十肩に対する鍼治療

2024.06.14

五十肩に対する鍼治療
目次

こんにちは、大阪府豊中市のほまれ鍼灸院の富本です。

今回のブログは五十肩に対する鍼治療について書きます。

五十肩に対して鍼治療が有効だということを皆さんご存知でしょうか?

一口に肩の痛みと言っても実は非常に沢山の種類があるのですが、その肩の痛みが以下の5つの特徴に当てはまる場合、五十肩の可能性があります。

  • 夜中寝ている時に痛い
  • 痛い側の腕を下にして寝れない
  • 安静にしていてもズキズキ痛い
  • 腕を挙げることができない
  • 背中に腕を回すことができない

特に夜間痛は五十肩の代表的な症状の一つです。

五十肩は非常に治りにくいことで有名です。

過去に五十肩を発症した人に話を聞くと、

治るのに一年以上かかった。

治るのに一年以上かかった。

痛みは落ち着いたけど、肩の可動域は狭いまま。

時間が経てば治ると思って放置していたら痛みこそ落ち着いたものの、肩の可動域が狭くなった。

といったように、治るまでに時間がかかるばかりでなく、結局治りきらずに後遺症が残っている人も少なくありません。

また、それだけでなく、治療の過程においても、

一向に良くならない。

整形外科や整骨院で電気やマッサージを受けても一向に良くならない。。

施術を受けてむしろ悪化した。

ストレッチ店で肩を無理やり伸ばされて余計に悪化した。。

といったように、本来良くするために行う施術行為によって逆に痛みを作ってしまっているケースも少なくありません。

実際、当院に来院されている患者さんの中でも、最近よく見かけるストレッチ専門店に行った結果、肩を無理やり動かされて痛みが悪化したという方もいます。

五十肩は治すのが非常に難しい症状であり、繊細な治療が必要になる症状です。

不適切な治療を行えば痛みは悪化しますが、数回適切な治療を行なったからといって、すぐに良くなる症状でもありません。

治療に難渋するケースも少なくありませんが、鍼灸治療は数ある治療法の中でも比較的早期に五十肩の痛みの改善が期待できる治療方法の一つです。

可動域の改善こそ時間はかかりますが、夜間痛であれば数回繰り返し治療を行うことによって痛みが大幅に軽減することも少なくありません。

この記事では、『なぜ五十肩に鍼が効くのか?』『五十肩に対する鍼治療で使用するツボ』についてなど、五十肩に対する鍼治療について徹底的に解説していますので、是非最後までお読み下さい。

五十肩に鍼治療が効く理由

肩峰下圧を取り除くことができる

五十肩の代表的な症状の一つである夜間痛ですが、この痛みは肩峰(けんぽう)と呼ばれる骨の下の部分の圧が高まることによって出現していると言われています。

肩峰下の圧力

マッサージなどとは異なり、鍼治療では肩峰周囲や肩甲骨周辺の筋肉に直接刺激を加えることが可能なので、それにより肩峰下部分の圧力を減らすことができ、結果として夜間痛の緩和が期待できます。

下の写真で赤丸に囲まれている部分が肩峰周囲に対する鍼治療の実際の様子です。

ここに鍼をすると、ズシンと響いたり、普段感じている痛みが再現されるような感覚が出現します。

五十肩に対する鍼治療

数回繰り返し鍼を行うことで夜間痛の軽減が期待できます。

肩甲下筋の緊張を取り除くことができる

五十肩を始めとした肩関節の痛みでは、腕を上げることが困難になることから、多くの場合、以下のような姿勢をとることが多くなります。

肩の痛みを和らげる姿勢

この姿勢は疼痛緩和姿勢(とうつうかんわしせい)といって、肩の痛みを和らげることが可能な体勢なのですが、脇を閉めて肩をすくめていることから、長期間この姿勢をとり続けていると、肩関節を始めとした肩甲骨周りの筋肉の緊張が非常に強くなってしまいます。

特に強く緊張が見られる筋肉が小胸筋肩甲下筋です。

小胸筋
肩甲下筋

そのうち肩甲下筋は肩甲骨の前側に存在する筋肉であり、深部に位置することから、マッサージや整体などでは適切に刺激を入れることが難しい筋肉の一つです。

鍼であれば技術が必要ですが、肩甲下筋に直接刺激を入れることが可能であり、肩甲下筋に鍼をすると肩関節の可動域が大幅に増えることも珍しくありません。

以下の写真は当院で行なっている肩甲下筋に対する実際の鍼治療の様子です。

赤丸で囲まれている部分は、3寸(9センチ)の非常に長い鍼を使用して肩関節の後ろ側から肩甲下筋に鍼をしています。

肩甲下筋に対する鍼治療

肩甲下筋が硬くなっている場合は、ズシンとした重だるい感じが出現します。

肩甲下筋に対する鍼は一般的な鍼灸院では行われていない深鍼治療の一つです。

深鍼について詳しくは鍼を深く刺す深鍼治療の効果と安全性についてをご参照ください。

鍼通電療法でとりあえずの痛み緩和も可能

五十肩を発症してすぐの時期は炎症期と呼ばれ、安静にしているだけでも激痛が走ります。

この時期はどのような治療を行なっても劇的に良くなる可能性は低く、痛み止めを飲みながら痛みに耐える日々を過ごすことになりますが、鍼通電療法を行うことで、痛みの程度を緩和させることが可能です。

鍼通電療法

根本的な治療ではなく、あくまでも対処療法ではありますが、肩周辺に鍼を行い、その鍼に持続的に電気を流すことで痛みの感覚をコントロールすることが可能となり、普段感じている痛みを少しでも和らげることが可能です。

痛い場所に電気を流すという点だけで考えれば、鍼以外でも可能ですが、筆者の臨床経験上、鍼通電はパットを使った電気治療よりも高い鎮痛効果が期待できます。

五十肩に対する鍼治療で使用するツボ

五十肩に対して鍼治療を行う場合、当院において頻繁に使用するツボは以下の3つです。

  • 肩貞(けんてい)…小円筋
  • 中府(ちゅうふ)…小胸筋
  • 背部兪穴(はいぶゆけつ)…脊柱起立筋

実際にはツボという考え方ではなく、ツボの位置に存在している筋肉を狙って鍼を打ちますが、ここではわかりやすいようにツボという呼び方でひとまとめにしています。

肩貞

肩関節の後方やや下の方に存在する小円筋は五十肩の治療において非常に重要なポイントです。

肩貞の場所

小円筋そのものが硬くなるだけでなく、小円筋と隣り合わせで存在している三角筋との間の動きが悪くなったりすると、腕をバンザイで上げる動きなどの制限が生じてしまいます。

鍼治療では、先に説明した肩の後ろから肩甲下筋に対して鍼をする際に同時に刺激することが可能です。

中府

肩関節の前方部分に存在する胸の筋肉です。

中府の場所

五十肩の痛みを緩和させる姿勢を長期間とり続けることによって、小胸筋が硬くなり、さらに腕を上げる時の制限が生まれてしまいます。

少し細めの鍼を使用して、胸から肩関節の方向へ鍼をします。

小胸筋に対する鍼治療

小胸筋の下には肋骨と肺が存在しているので、鍼を刺す方向を誤ると肺に鍼が刺さる可能性があることから、非常に繊細な手技が求められる鍼治療です。

この筋肉の硬さが取れると、バンザイなどの腕を上げる動作が行いやすくなります。

背部兪穴

五十肩を発症した場合、不安定な肩関節を少しでも安定させようと、肩関節だけでなく、背骨や肩甲骨周囲の筋肉も強く緊張し、結果的に首や肩の過緊張による二次的な痛みを発生させてしまいます。

ですので、当院では肩関節の痛みの場合は、肩だけでなく、首や背中の筋肉の緊張に対しても同時に鍼を行います。

脊柱起立筋に対する鍼治療

肩の痛みを庇うあまり、首や肩甲骨周囲の筋肉も緊張していることがほとんどですので、この辺りの硬さを取ることによって、五十肩が原因で発症する二次的な痛みの軽減が期待できます。

そもそも五十肩とは一体なんなのか?

さて、五十肩に対する鍼治療について色々とまとめてきましたが、ここらで、そもそも五十肩とは一体なんなのか?について考えてみましょう。

ここまででも、結構長い文章になってしまっているので、離脱している人も少なくないでしょうが、痛みを治す(敵を倒す)には、まず敵(痛みの原因)について知ることが大切です。

五十肩について正しく理解することで、たとえなかなか良くならずに痛みが長引いたとしても、痛みが時間経過で必ず良くなると知っていれば我慢することも可能です。

五十肩or四十肩?

まず名前について考えてみましょう。

五十肩と言っていますが、世間一般的には四十肩という呼び方もありますよね。

皆さん、五十肩と四十肩の違いって知っていますか?

五十肩って何?

40代でなったら四十肩で50代でなったら五十肩?

実は五十肩と四十肩に明確な違いは特にありません。

五十肩、四十肩は正式名称ではなく、正式には肩関節周囲炎と呼びます。

肩関節周囲炎を発症しやすい年代が40〜50代であることから、この愛称が付けられているわけですが、決してこの年代の人にしか発症しないというわけではなく、中には30代や60代で五十肩を発症する人もいます。

五十肩や四十肩という表現は単なる愛称ということです。

どこかが痛くなった時に整形外科を受診すると、その痛みに対して診断名がつきますよね。

急に腰が痛くなったら急性腰痛症。

何年も前から膝が痛かったら変形性膝関節症。

といった具合に、症状には診断名が付けられますが、五十肩は正式な診断名ではないので、五十肩の症状で病院を受診した場合は、肩関節周囲炎の診断が付けられます。

じゃあ、肩関節周囲炎って一体なんなんだ?という疑問が湧いてきますよね。

実は、これもひじょ〜に曖昧な診断名なんです。

というのも、肩関節『周囲』炎という診断名だけだと、実は肩関節の具体的にどの組織が炎症を起こしているのかわからないんです。

肩関節の周囲には、筋肉もあれば靭帯もある、腱もあれば関節包もあります。

筋肉だって一つだけではありません。

肩関節は非常に不安定な構造の関節なので、その不安定さを支えるためにインナーマッスルやアウターマッスルなど沢山の筋肉が存在しています。

肩関節周囲炎といった名前だけだと、具体的に肩関節の周囲のどの組織に問題が起きているのかわからないといった問題が起きています。

ですので、適切な治療を行うためには、肩関節の周囲のどの組織に問題が起きているのか、レントゲン以外のさらに詳しい画像検査や徒手検査にて鑑別を行う必要があるということです。

五十肩の痛みの段階について

五十肩には発症してからの期間によっての分類が存在しています。

五十肩の三つの段階

  • 炎症期
  • 拘縮期
  • 解氷期

自分の五十肩が今、どの時期に当てはまるのか?を理解することが五十肩の治療において非常に重要です。

一番最初の段階である炎症期は、安静にしていてもズキズキと痛みが出現する時期であり、夜間痛も出て非常に辛い時期です。

二番目の拘縮期は、少し痛みが落ち着くので炎症期ほどの強い痛みは出現しませんが、肩関節を動かせる範囲が著しく減っている状態です。

拘縮を防ぐためには可動域の訓練が必要ですが、炎症期に可動域訓練を行うと、それは不必要な負荷となり痛みを非常に強くしてしまいます。

積極的に可動域訓練を行うべき段階で、運動を行わなければそれはまた逆に拘縮を強めてしまう可能性もあるので、適切な治療を行うためには、今自分の五十肩がどの時期に当てはまるのかを理解することが大切です。

他の症状よりも痛みが強い理由

五十肩を発症した人がよくいう言葉に以下のものがあります。

五十肩の痛みは他のどの症状よりもキツイ

今まで色々な痛みを経験したけど、五十肩の痛みは他のどの痛みよりもキツイ。。

首や腰の痛みは不快ではあるものの、なんとか生活できるといった人がほとんどですが、五十肩の痛みは大の大人がうずくまってしまうほど痛みが強いこともあります。

何故でしょうか?

実は、肩関節には痛みを感じるセンサーが他の部位よりも豊富に存在しているのです。

つまり肩関節は、他の部位に比べて最初からそもそも痛みを感じやすい部位であるということです。

肩関節は痛みのセンサーが豊富に存在している。

加えて、重力の関係で、基本的には肩関節は常に下方向に引き下げられる力が働いており、これに抗うために、無意識のうちに肩周辺の筋肉は緊張を強いられることになるので、筋緊張が強くなりやすく、それによっての痛みも出現します。

健康な状態の時には何も感じませんが、実は人の腕というのは意外と重く、体重50キロの人の場合だと、片腕3キロくらいの重さがあります。

3キロと聞くと、そこまで重いというイメージがないかもしれませんが、その重さが四六時中常に肩に乗っているわけですから、決して無視できない重さです。

五十肩の時に絶対にやってはいけないことについて

先述したように五十肩には発症してからの期間によって段階があります。

・五十肩の3段階

  • 炎症期
  • 拘縮期
  • 解氷期

早期の回復を目指すのであれば、第一段階の炎症期では絶対に無理な可動域訓練を行なってはいけません。

昨今、ショッピングモールなどの人が多く集まる施設に出店する整体院やストレッチ専門店などが増えています。

決して整体やストレッチそのものを否定するわけではありませんが、それらの店舗で働くスタッフはごく一部を除いて素人に毛が生えた程度の知識しか持っていないスタッフであり、五十肩の患者に対して平気で腕を無理に動かすストレッチなどを行うケースがあります。

五十肩の初期の患者の肩を無理やり動かすと何が起こるか?

基本的な医療知識を持っていれば火を見るよりも明らかなのですが、幾分、これらの店舗は集客が上手ということもあり、これらの店に行って無理な施術を受けた結果、痛みを悪化させてしまう人が少なくありません。

そもそも痛みが非常に強い時期に、わざわざ無理に動かして、さらに痛みのセンサーを過度に刺激したわけですから、当然痛みが落ち着くまでにかかる期間もさらに長引いてしまいます。

痛みが強い際は、どうしても藁をもすがる思いで、様々な治療を試してみたくなりますが、治療や施術において魔法は存在しないので、一度五十肩について正しい知識を身につけて、現実を受け入れて、長期的な目線で症状と付き合っていく必要があります。

まとめ

五十肩の発症率自体は人口の2%と言われており、それほど多い症状ではありませんが、その割には、誰しも一度は耳にしたことがある肩の痛みの一つですよね。

五十肩は放っておいたら治ると言われていますが、それは誤解です。

確かに放っておけば、痛みの程度こそ時間経過によってマシになりますが、可動域制限などが残り日常生活に支障が出ることも少なくありません。

決して甘く考えずに、肩に違和感や痛みが出たり、夜中寝ている時にも痛みが出るようになればすぐに専門的な機関で診てもらうようにしましょう。

あまり知られてはいませんが、鍼治療は五十肩(特に夜間痛)に対しての効果が期待できる治療の一つです。

なかなか治らない肩の痛みでお悩みの方は是非一度鍼治療を検討してみてください。

ほまれ鍼灸接骨院院長 富本 翔太

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