大腰筋に対する鍼治療

大腰筋に対する鍼治療について
目次

こんにちは、大阪府豊中市ほまれ鍼灸接骨院の富本です。

今回は大腰筋に対する鍼治療についてです。

『転倒予防の為に腸腰筋を鍛えましょう!』

『パフォーマンスアップの為に腸腰筋を鍛えましょう!』

昨今、老若男女のトレーニング指導や治療の現場でよく耳にする言葉です。

思えば腸腰筋という言葉が世間一般に認知されるようになったのはいつ頃からでしょうか?

トップレベルで競技に取り組むアスリートにとっては、すでに随分前から意識してトレーニングしている筋肉のうちの一つにすぎなかった腸腰筋ですが、ウサインボルトが北京オリンピックで圧倒的な記録を残して金メダルを獲得して以降、『ボルトの腸腰筋は他のオリンピックランナーと比較しても非常に発達している』『黒人の腸腰筋は白人のそれよりも30%ほど発達している』といったように、腸腰筋という筋肉の存在に焦点が当てられるようになり、ある種その名前が一人歩きするようになったように思います。

高齢者の転倒予防においても、スポーツのパフォーマンスアップにおいても、ひいては腰痛の治療においても非常に重要な存在となってくる腸腰筋ですが、その本当の存在意義などについては知られていないことも数多くあります。

この記事では、大腰筋に鍼治療をするにあたって必ず知っておく必要がある腸腰筋に関する基礎的な知識と大腰筋への鍼治療によって期待できる効果についてまとめています。

専門用語も出てくるので基本的には鍼灸師向けですが、一般の方が読んでも参考になる点が多数あるかと思います。

深部に存在する腸腰筋に対して、長鍼を用いて物理的に直接アプローチすることができるのは、他の医療従事者では行うことができない鍼灸師だけの特権です。

是非最後までお読みください。

腸腰筋基本データ

腸腰筋は大腰筋と腸骨筋、小腰筋の三つの筋肉によって構成される筋肉ですが、小腰筋が最初から存在しない人も多いことから、ここでは割愛したいと思います。

大腰筋

・起始…浅頭 第12胸椎〜第4腰椎の椎体側面及び椎間円板側面
深頭 全腰椎の肋骨突起

・停止…大腿骨の小転子

・作用…股関節の屈曲、外旋、体幹の同側への側屈

・支配神経…腰神経叢(L1〜4)の前枝

大腰筋

腸骨筋

・起始…腸骨窩

・停止…大腿骨の小転子

・作用…股関節屈曲

・支配神経…大腿神経、腰神経叢の枝(L2〜4)

腸骨筋

腸腰筋はどこの筋肉?

腸腰筋について簡単に知ったところで、そもそも腸腰筋は体のどの部分の筋肉で、一体何をしているのかについて考えてみましょう。

腸腰筋は一体どこの筋肉なのでしょうか?

脚の筋肉?

お腹の筋肉?

それとも腰の筋肉でしょうか?

最も有名な解剖書であるプロメテウスには内骨盤筋と記載されています。

腰椎から始まり、骨盤内を通って大腿骨の小転子に付着することから『骨盤の内側の筋肉』とカテゴライズされているようです。

一方、カパンジー関節の生理学では側腹部の筋肉と記載されています。

腰椎の側面に存在していることから腰方形筋と一緒にお腹の側面の筋肉として扱われています。

その他の解剖書では後腹壁筋と記載されていたりと、解剖書によってまちまちです。

腸腰筋だけで考えると、大腿骨に停止していることから脚の筋肉と言って差し支えなさそうですが、どの書籍でも腰方形筋と同じ分類として記載されています。

腰方形筋は下の画像を見てもわかるように、肋骨と腸骨を繋いでいる筋肉なので、少なくとも脚の筋肉ではなさそうです。

腰方形筋

じゃあ、一体腸腰筋って何なのか?

支配神経から考えてみるとスッキリします。

腸腰筋全体としては腰神経叢に支配されると記載されていますが、腸腰筋を大腰筋と腸骨筋に分けて考えると、大腰筋が腰神経叢支配で腸骨筋が腰神経叢(大腿神経支配)となっています。

なるほど、『腸腰筋』と一つの塊として考えているから分かりにくくなっていますが、どうやら大腰筋と腸骨筋で実際は色々と異なる部分がありそうです。

ちなみに腰方形筋は大腰筋と同じ腰神経叢支配です。

大腿神経も腰神経叢から出る枝の一つなので、大きな分類としては同じ括りになりますが、支配神経から考えてみると、どうやら大腰筋と腰方形筋が腰の筋肉で、腸骨筋が脚の筋肉と言えるのではないでしょうか。

の筋肉だから大筋に方形筋。

の筋肉だから腸骨筋。

よくよく漢字を見てみれば一目瞭然ですね。

灯台元暮らしとはこのことです。

一般的にお腹の筋肉として考えられがちな腹直筋や腹斜筋といった筋肉も同じく腰神経叢支配ですが、同じ腰神経叢支配と言っても、わざわざ腰神経叢の枝である腸骨下腹神経に支配されると記載されていることから、大腰筋や腸骨筋をお腹の筋肉として考えるのはやや苦しいのではないかと思います。

腸腰筋の役割は?

股関節屈曲筋としての腸腰筋

さて、腸腰筋が一体何なのかがはっきりしたところで、次は腸腰筋の役割についてです。

腸腰筋は主に股関節を屈曲する筋肉として知られていますが、その他にも腰椎の側屈や、股関節を屈曲した位置での外旋の働きもあるとされています。

腸腰筋といえば股関節の屈曲ですが、股関節の屈曲に働く筋肉は腸腰筋以外にも大腿筋膜張筋や大腿直筋、恥骨筋、縫工筋などいくつか存在します。

このうち腸腰筋と大腿直筋の二つで屈曲の力の50%ほどを負担しています。

腸腰筋が股関節屈曲に最も強く働くのが、股関節を屈曲している状態からの屈曲動作で、この位置からの動作は他の屈曲筋である大腿直筋などが働きづらいポジションであることから、主に腸腰筋がその動作の大半を行っています。

また、随意筋としての役割は上記の通りですが、それ以外にも腸腰筋には、股関節安定化機構としての役割と抗重力筋として姿勢の維持に関わる機能が存在します。

股関節安定化機構、抗重力筋としての役割

股関節は肩関節と同じく球関節に分類されます。

骨性に不安定な肩関節に比べると、同じ球関節といえども安定している股関節ですが、我々人類が四足歩行から二足歩行に移行した名残りで、股関節の前面部分だけは寛骨臼に覆われている割合が低く、他の部位と比べて不安定な状態となっています。

その構造を補うために、人体の中でも最も強靭な靭帯である腸骨大腿靭帯や恥骨大腿靭帯が存在して安定性を高めているのと同時に、腸腰筋や小臀筋も股関節前面に付着し、その安定性を高める役割を果たしています。

また、先述したように、爆発的パワーを必要とする陸上短距離選手の腸腰筋は一般人のそれとは比較にならないレベルで発達していますが、腸腰筋はあくまでも分類で言うと、持続的に力を発揮する能力に優れている遅筋(赤筋)にカテゴライズされます。

人間以外の腸腰筋は速筋繊維が多いようですが、人間の腸腰筋は四足歩行からの進化の過程で、異なる役割を担うようになったようです。

余談

余談ですが、腸腰筋は焼き肉の部位で言えばヒレ肉に該当します。

ヒレ肉といえば、よくステーキとして食べられる部位で牛肉の中で最も脂身が少ない赤身肉として知られています。

ヒレ肉

歯で噛む必要がないくらい柔らかいヒレ肉ですが、なぜそんなにも柔らかいのでしょうか?

実は、人間と違い四足歩行で生活している牛にとって、大腰筋は抗重力筋としての役割を果たしておらず、ほとんど働くことがないため筋が入らずとても柔らかいと言われています。

使っていない部分だから、あまり筋が入りにくく柔らかいというわけですね。

人間の場合は別ですね。

二足歩行の我々の場合、腸腰筋は主に脚を挙げる際に働く筋肉として知られており、この筋肉が弱ると、歩行時に脚が上がりづらくなることによって躓くことが多くなります。

高齢者の場合はそれによって転倒し、大腿骨骨折などのリスクもあることから健康的な生活を送るためにも非常に重要な筋肉だと考えられています。

また、青壮年においても重要な筋肉です。

日本において腰痛は全国民共通の問題ですが、慢性的な腰痛で、痛みの部位や原因がはっきりしないタイプの場合、腸腰筋が原因となっている可能性があります。

次の章では、腸腰筋が原因となる腰痛の特徴やギックリ腰と腸腰筋の関係について見ていきたいと思います。

ちなみに、余談も余談ですが、牛の大腰筋も人間の大腰筋と同じく背骨の両側に存在していますが、他の部位の肉に比べると牛一頭から少ししか取れないこともあって高級品とされています。

慢性腰痛の原因としての大腰筋

腰痛にも様々な種類が存在しますが、腸腰筋を構成する筋肉の一つである大腰筋が原因となっているタイプの腰痛もあります。

長時間のデスクワークなどで股関節がずっと曲がっている状態が続くと、腸腰筋が縮こまってしまい、いざ立ち上がった際に縮こまった状態から一気に伸ばされる負荷が加わることによって痛みが現れます。

大腰筋性の腰痛の特徴は以下の通りです。

  • 椅子から立ち上がる際に痛い
  • 腰が伸びない、伸びづらい
  • 痛みの場所がはっきりしない
  • 腰を押してみても痛い場所がない
  • くしゃみすると腰に響く

大腰筋は腰骨から脚骨(大腿骨)に付着していることから、大腰筋性の腰痛では椅子からの立ち上がり動作など、股関節(脚)が動く動作によって痛みが現れることが特徴です。

また、股関節を曲げる役割の筋肉であることから、固まっていると股関節伸展の動作に制限がかかり身体を真っ直ぐに伸ばすことができなくなります。

深部に存在することから痛みの局在は不明瞭なことに加えて、前面には腹部内臓、後面には分厚い固有背筋が存在していることから筋肉に直接アクセスすることが非常に難しく、腰を表面から押してみてもどこにも圧痛がないなんてこともあります。

患者さんに『腰のどこが痛みますか?』と質問しても下位腰椎から仙骨までの腰臀部全体を示すことが多く、患者自身も具体的にどこが痛いのかわかっていない場合も少なくありません。

また先述したように抗重力筋としての役割も持つことから、立位姿勢が長時間続いた後に痛みが出ることも特徴の一つです。

急性腰痛と腸腰筋の関連

慢性腰痛だけでなく急性腰痛(ギックリ腰)の原因にもなります。

ギックリ腰にも種類があるので、全てのギックリ腰の原因が大腰筋だというわけではありませんが、くしゃみをすると腰に響くような腰痛は大腰筋が原因であると考えられています。

なぜ、くしゃみをすると腰に痛みが出るのか?

くしゃみをすると腰に響く。

結構聞く話ですが、実際体感したことがある人も多いのではないでしょうか?

実は筆者も慢性的な腰痛を抱えているのですが、調子が悪い際はくしゃみをすると腰に響いたり、腰が抜けそうになったりする感覚がたまにあります。

一見腰の痛みと関係なさそうなくしゃみがなぜ腰に響くのでしょうか?

大腰筋の走行を考えてみればその謎は解けます。

くしゃみをする際には呼吸に関与する筋肉の一つである横隔膜が急激に収縮するのですが、横隔膜は一部腰椎の椎体から腱中心へ向かって走行している筋肉の一つですから、腰椎の椎体部分で大腰筋と起始を共有しています。

横隔膜と大腰筋は連絡している。

ですので、くしゃみによる横隔膜の急激な収縮が大腰筋にも連動して伝わることによって腰痛が引き起こされると考えられます。

坐骨神経痛症状との関連 腰神経叢支配の話

腸腰筋、特に大腰筋に長期間問題を抱えている場合、腰痛だけでなく臀部や下肢に痺れや痛みなどの問題を引き起こします。

下肢の筋肉を支配する腰神経叢は腰椎の一番から四番の前肢が吻合を形成し、腰椎四番目と五番目の高さで腰仙骨神経管を形成し、坐骨神経となり下肢末端へと向かいます。

坐骨神経が梨状筋部分で圧迫絞扼されることによって発症する梨状筋症候群は非常に有名ですが、もっと幹となる部分、つまり大腰筋部分で腰神経叢が圧迫されることによって発症する下肢症状もあります。

絞扼される神経によって症状はそれぞれ違いますが、坐骨神経様の症状が出ることもあれば、大腿神経が圧迫されることから脚の前側に痛みなどが出現することがあります。

腰神経叢の枝一覧

  • 腸骨下腹神経
  • 腸骨鼠蹊神経
  • 陰部大腿神経
  • 外側大腿皮神経
  • 大腿神経
  • 閉鎖神経
  • 腰仙骨神経管

神経叢とは、言ってみれば配電盤のようなもので、ここから足に向かって神経が出ていく場所です。

『腰は漢字で月に要と書いて腰と読むことから、腰は身体の要です』

なんて話は、鍼灸師であれば嫌というほど耳にした話でしょうが、なるほど神経叢の観点から考えてみても納得がいきます。

ここから一斉に足に向かう神経が走行しているのですから、どう考えても重要です。

臨床においても、腰の痛みと共に足の痺れやだるさを訴える人は非常に多いですが、痺れの部位などを細かく効いてみると、いわゆる典型的な坐骨神経症状で障害される腿裏や脛、ふくらはぎ以外にも、腿の前や外側の部分に痺れや鈍痛、重だるさを訴える人も多くいます。

ひどい慢性腰痛の場合は、お腹にまで痛みや張りが出現することもあるので、患者の訴えや痛みを示す部位を注意深く観察する必要があります。

『腰痛+足の痺れ=坐骨神経痛なので臀部のマッサージ』と考えている人も多いかもしれませんが、大腿部の前面や外側の部分は腰神経叢から枝が出る大腿神経や外側大腿皮神経の支配領域なので、いくらお尻をほぐしたとしても問題は解消されません。

坐骨神経症状に対して臀部の筋肉などにアプローチして変化が見られない場合、大腰筋に視点を移してみることも大切です。

そのような症状を訴える患者は往々にして、ほとんどが股関節周囲筋(特に腸腰筋)が硬くなっていることが多く、鍼治療によってそれらの筋肉の緊張を軽減させることによって症状の改善が期待できます。

特に大腰筋に物理的に直接刺激を届かせることができるのは鍼治療の特権の一つなので、代表的な鍼灸適応の疾患の一つと言えるかと思います。

拮抗筋との関係…大腰筋が硬いと肉離れ?

トップレベルのアスリートであっても肉離れを繰り返している人がいます。

練習前後のストレッチに加えて、トレーナーによるハムストリングのマッサージも受けているのに肉離れを繰り返してしまう。

これほどまでにケアを徹底しているのに怪我をしてしまうのは何かハムストリングに欠陥でもあるのでしょうか?

繰り返しやすいと言われている肉離れですが、適切な対応を行ってさえいればそこまで引きずることはないはずです。

この場合、ハムストリング以外の部位が原因となっている可能性があります。

そのうちの一つとして考えられるのがハムストリングの拮抗筋である股関節屈曲筋群からの影響です。

拮抗筋とはその名の通り、対象となる筋肉の逆の働きをする筋肉であり、股関節伸展動作を司るハムストリングにおける拮抗筋は腸腰筋や大腿直筋などにあたります。

股関節屈曲作用を持つ筋肉

  • 腸腰筋
  • 大腿直筋
  • 恥骨筋
  • 大腿筋膜張筋
  • 縫工筋

人間には拮抗抑制と呼ばれる反射が存在しており、ある筋肉が緊張収縮している際に、その拮抗筋に対しては収縮に対する抑制がかかり弛緩するという作用が働きます。

少しややこしく感じる人もいるかもしれないので例を挙げると、『肘を曲げる』動作を行う際は上腕二頭筋が収縮することによって肘を曲げる動作をおこなっていますが、同時に、肘を曲げるのですから、肘を伸ばす筋肉である上腕三頭筋が弛緩しておく必要がありますよね。

肘を曲げたいのに肘を伸ばす筋肉に力が入っている状態ですと、どんなに上腕二頭筋に力を入れたって肘を曲げることはできません。

人間の体は精巧にできており、この際にいちいち自分で肘を伸ばす筋肉である上腕三頭筋を弛緩させようと考えなくても反射が働くことによって無意識のうちに目的の運動を遂行することができているのです。

股関節でも同じことが起こっています。

スポーツにおける非常に重要な動作である股関節伸展は、主に大臀筋、ハムストリング、大内転筋によって行われています。

一つの筋肉だけが単独で働いているわけではなく、股関節伸展作用を持つ筋肉達が共同して動作を行なっているのですが、仮に腸腰筋に緊張や短縮が見られる場合。

腸腰筋の拮抗筋である大臀筋に対して拮抗抑制がかかり、股関節伸展動作の際、大臀筋が十分に力を発揮できなくなっている可能性があります。

伸展動作を司る大臀筋が収縮しづらい状態ですので、当然代償作用として他の伸展筋群(ハムストリング)が過剰に働くことになり、結果的に肉離れなどのスポーツ障害の発生リスクが増加します。

例え肉離れであっても、患部ばかり見ていてはいけません。

原因は意外なところに隠れているかもしれません。

大腰筋に鍼を届かせるためには

そんな兎にも角にも超重要な大腰筋ですが、この筋肉が緊張していることによって体に問題が発生している場合、一体どうやってアプローチすればいいのでしょうか?

腹部の奥に存在しているので、ストレッチやマッサージではどうしても直接アプローチしづらい筋肉ですが、そんな大腰筋に対してダイレクトにアプローチすることができる方法こそが鍼治療です。

鍼であれば、背部から長鍼を使って深刺することによって凝り固まった大腰筋に対して直接物理的刺激を与えることが可能です。

ただし、これまで散々説明してきたように大腰筋は深部に存在するインナーマッスルです。

大腰筋に鍼を届かすためにはどうすればよいのでしょうか?

解剖アプリのビジブルボディとプロメテウスを参考に腰背部の筋肉を表層から剥がしてみると、大腰筋にたどり着くまでに、

  • 胸腰筋膜
  • 固有背筋
  • 多裂筋
  • 横突間筋

といった感じで、いくつかの筋肉を貫いてようやく大腰筋に辿り着けます。

こんなに深部に存在している筋肉を鍼を届かせようと思うと、どのくらい刺入する必要があるのでしょうか?

大腰筋の刺鍼深度について検索してみると、体幹部の刺鍼深度についての論文が見つかりました。

鍼灸医学の立場から見た人体解剖(3)

この研究で用いられた検体は、身長139センチ、体重52キロの女性となっており、平均的な体型の男女よりもかなり小柄な部類に当てはまるので、あくまでも参考程度ではありますが、大腰筋が存在する高さの経穴である志室から大腰筋を貫くまでに85mmの距離が計測されたようです。

この体格の女性でこの数字ですから、平均的な体格の男女だともう少し長い鍼が必要になりそうです。

大腰筋刺鍼で有名な北京堂鍼灸創始者の淺野周先生の書籍には痩せ型の女性なら75mm、普通体型の男性なら90mmの鍼を使用すると著書に記しています。

(✳︎鍼灸院治療マニュアル参照)

筆者は淺野先生の一番弟子である神戸の二天堂鍼灸院の中野先生の勉強会に参加し、直接大腰筋刺鍼を教わりましたが、そちらでも普通体型の男性であれば90mmの鍼を、体格の良い男性であれば10.5mmの鍼を使用すると教わりました。

体格にもよりますが、大腰筋に鍼を届かせるためには最低でも75mm~90mmの鍼を使用する必要があります。

大腰筋に対する鍼治療の実際

以下の写真は当院で実際に行なっている大腰筋への鍼治療の様子です。

大腰筋に対する鍼治療の様子

慢性腰痛の患者さんに対して、大腰筋に加えて、多裂筋、腰方形筋、中臀筋に鍼を行なっています。

大腰筋には3寸の鍼を使用しています。

慢性腰痛の訴えに対して大腰筋を中心とした鍼治療を行なっています。

以下の写真は腸骨筋に対する鍼治療の様子です。

腸骨筋に対する鍼治療

股関節前方の詰まり感に対して行なっています。

通常、股関節前方の詰まりや違和感であっても大腰筋への鍼治療を数回行うことで効果が見られますが、こちらの患者さんの場合は大腰筋への鍼治療だけでは変化が見られず、腸骨筋への鍼治療を行なったところ一回で改善が見られました。

最後に

大腰筋への鍼治療は北京堂の淺野周先生が開発した治療法です。

筆者は淺野周先生の一番弟子である、神戸の二天堂鍼灸院の中野先生が開講している炎の鍼灸師講座、通称『ほのしん講座』を受講し、その後、中野先生の元に弟子入りして直接教わりました。

習得したいと思った場合は、淺野先生の書籍やDVD、もしくは中野先生の書籍やブログ記事を参考に勉強し、すでに習得している鍼灸師の元で練習することを強く勧めます。

大腰筋性の腰痛のチェックに当てはまる項目が多い方やぎっくり腰を毎回繰り返している方などで、大腰筋への鍼治療を受けてみたい方は当院にご来院いただければ実際に治療を受けていただくことが可能です。

ほまれ鍼灸接骨院院長 富本 翔太

この記事を書いた人