『そうだ、ニューヨークに行こう。』
ある日、急にふと思い立った。
鍼灸院を開業してからどのくらいが経過しただろうか。
治療院の業界に入ってからは10年以上が経過している。
実際に固定の店舗を借りるようになる前から出張などで開業していたが、振り返ってみると現在の豊中駅近くのテナントを借りてからは早3年となるようだ。
あっという間の3年間だった。
初めの1年のうち、特に最初の半年くらいは暇で暇で仕方なかったので、ずっとバイトをしていた。
鍼灸院で患者さんを施術している時間よりもバイトしている時間の方がよっぽど長かった。
とはいえ、バイトといえど鍼灸師の免許を使用しての訪問鍼灸の仕事だったので良い経験になった。
知り合いが全くいない場所で開業したので、最初からある程度の期間はバイトをするつもりだった。
『一年目はバイトしながらで、二年目からはバイトせずに鍼灸院だけでやっていけたらいいかな。』
と考えて、右も左も分からない中、思い切って不動産屋に突撃して、訳もわからない状態で物件をいくつか見学し、当時の自分なりに考えて、今の場所を借りた。
振り返ると、色々なことがあったと思いつつも、三年が経過した今、当初思い描いていた以上に充実した毎日を過ごすことができている。
想像通り一年目はめちゃくちゃバイトしていたが、いつしか忙しくなり、バイトに行っている時間がなくなって、鍼灸院は毎日予約でいっぱいになっていた。
鍼灸院は施術をしている時間だけが業務時間ではない。
患者さんの症状や経過をまとめたり、施術を振り返ったり勉強したりする時間もそれと同じくらい重要だ。
予約が埋まるようになってくると、営業時間内で、そういった振り返りや学習の時間をとることができなくなってくるので、必然的に営業時間外や自宅に帰ってからも仕事をするようになる。
当然、それ以外の経営にまつわる業務もする。
自営業なので、患者さんに存在を知ってもらうためには努力が必要だ。
ブログを書いたり動画を作ったりして、知名度を高めるのも大事な仕事の一つである。
元々会社に勤務していた時から副業などもやっていて、仕事をするのは好きな方だったので、最初は全く苦に思っていなかったのだが、朝から晩まで予約がいっぱいで昼飯を食べる時間もなく施術をして、帰宅してからカルテをまとめて資料を読むような生活をしていると一年位たった時点で、何か心の奥底で『しんどいな』と思うようになってきた。
開業してすぐは、1週間に患者さんが1〜2人とかがザラだったので、全エネルギーを注いで施術に当たっていたのが、忙しくなった結果、当初ほど全力で仕事にエネルギーを注ぐことができていないのではないかと思うようになった。
施術する回数が圧倒的に増えているのだから、ある意味仕方のないことかもしれない。
正直言ってどんな仕事でも出てくる課題だと思う。
それに自営業なので常に不安はつきまとう。
今になって思えば良い時もあれば悪い時もあると完全に理解できているので、どうってことないのだが、当時は少し予約枠に空きができて暇になると、将来のことが不安になってきたりもしていて、休みの日でも仕事のことが頭から離れることはなかった。
ずっと仕事のことを考えていて、仕事のことばかり話すので、妻との会話も楽しめないし、子供と過ごす時間も極端に減っていた。
心の底から熱中していた柔術も、万が一怪我でもして仕事に影響が出るとダメだと考えて、いつしか足が遠のき、トレーニングやサッカー、読書、英語の学習といった元々の趣味も、そんなことに時間を使っているくらいなら、より鍼灸院を成長させるための仕事をするべきだと、いつの間にか自分で自分を追い込んでいたようで、気づいたら開業する前よりも5キロ以上も体重が減っていた。
そんな時、テレビを見るとサッカーワールドカップがやっていた。
『テレビを見ている時間があれば仕事しろ』
ここ最近の自分なら、そう自分に言い聞かせて自宅の書斎に篭って作業を進めるはずが、なぜがテレビに目が釘付けになって離れなかった。
自分はサッカーの才能は全然なかったが、サッカー自体は大好きで、学生自体にはプレミアリーグを見にイングランドに足を運んだこともある。
当時はサッカー日本代表の選手なんて、スタメンからサブまで全員の生年月日がわかるくらい熱中していたのに、今の画面に映る選手はほとんど知らない選手ばかり。
そりゃそうである。
ふと気になってググってみると、ほとんどの選手が自分より年下の選手ばかりではないか。
自分よりも年下の選手達が国を背負って格上とされているオランダ相手に真っ向勝負を挑んでいる。
なぜか急に胸が熱くなった。
気づけば画面から数センチくらいのところでテレビに釘付けになっていた。
結果は2ー2のドロー。
土壇場でギリギリ追いついて日本が執念を見せた形となった。
そのまま日本代表の試合は全試合見た。
試合を見ていると日本代表に関する沢山のCMが流れてくる。
その中の一つに求人サイトのindeedのCMがあった。
今では誰もが知っている最強の求人サイトである。
筆者も自分が仕事を探すときはもちろん、当院の受付スタッフのアルバイトを雇う的にも使わせてもらった非常に便利なサイトだ。
広告には日本代表レギュラーの堂安選手とそのトレーナーさんが出演していた。
『堂安の専属トレーナーか?すごいな』と思って、何の気なしにそのトレーナーさんについて調べてみたら、indeedのサイト内にそのトレーナーさんが載っていて、自身の経歴について語っていた。
見てみると、柔道整復師と鍼灸師の資格を持っており、日本にいる時は鍼灸整骨院を開業していたらしい。
開業してから3年が経った段階で右も左もわからない状態で単身でドイツに飛んで、今の仕事にありついたらしい。
(現在はフランクフルトというドイツのサッカー名門チームでトレーナーとして勤務している)
その経歴を読んだ瞬間に『いや、俺やん』と思った。
筆者も同じく柔道整復師と鍼灸師の資格を持っていて、自身の治療院を開業している。
サッカー日本代表に選ばれるような選手は小さい頃から特別なので、ある程度、才能があって選ばれているのはわかるが、
ことトレーナーや治療家に関しては、少なくとも免許が取れる年齢が決まっているのだからスタートする場所は能力はある程度同じのはずだ。
同じ資格を持っていて、同じことをしていた人ができているんだから、自分にできないなんてことはないだろうと思った。
すぐに、この人に会いに行こうと思った。
アポなんて取れるわけがないが、とりあえず何かいてもたってもいられなくなって、ドイツに行こうと思った。
行けば何かがわかるはず。何かにつながるはずだ。
鉄は熱いうちに打てという言葉がある。
筆者の大好きな言葉の一つである。
『ドイツに行こうと思う』と妻に言ってみた。
普通に考えて、子供がいて自営業の筆者が仕事を休んで、家族も連れて行かず一人で海外に行くと行ったら当然反対されるに決まっている。
いつもなら、そういった前提条件が頭の中にあるので、わざわざ言うこともしないのだが、非常に熱量が高くなっていたのだと思う。
いつも通り家族で夕食を食べている時にポロッと『俺仕事休んでドイツ行ってくるわ』って冗談半分で言ってみた。
それを聞いた妻は最初は『え?なんで?』と首を傾げていたが、ドイツに行ってみようと思った理由について、赤裸々に喋ってみると『そういうことなら、行ってきて』とまさかのゴーサインを頂くことができた。
仕事として案件がある状態で行くならまだしも、全く何も決まっていない状態で行くので、流石にゴーサインが出るとは露程も思っていないかった筆者は逆に驚いてしまい、何回も『本当にいいの?』と聞きすぎてしまい、逆に鬱陶しがられてしまった。
こうして1週間仕事を休んでドイツに行ってみようとなった。
なったのだが、、、
冷静になって考えてみて、ドイツにアポなしで行って何か手掛かりが得られるのかというと正直言って、可能性としては非常に低いことは間違いない。
アポを取ろうにもどうすればいいかわからない。
(今になって思えば、クラブチームなどにメールなどで問い合わせるなどやり方は無数にあったと思う)
それに今の時期はヨーロッパはクラブシーンのサッカーがシーズンオフなのでそもそもサッカーがやっていない。
それもそのはず、そもそもW杯は通常のサッカーのシーズンがオフの状態にやっているのだから、今ドイツに行ったからといって、ドイツをはじめとするヨーロッパには選手やトレーナーはそもそも不在だろう。
今はドイツに行くタイミングではない。。。
しかし、今回のこのタイミングを逃せば次、いつこれだけの長い期間休みをとって海外に行けるタイミングがあるかなんて全くわからない。
子供の年齢や学校の都合で、今回のタイミングを逃せば少なくとも数年はこういった形で動くことができないことが予想できていたので、ドイツがダメなら他の場所に行ってみようと考えを変えて、『どうせならサッカーワールドカップの決勝が開催される場所に行ってみよう』という発想に至った。
決勝の場所を調べてみると、それはアメリカはニューヨークだった。
『そうだニューヨーク行ってみよう。』
妻にドイツじゃなくてやっぱりニューヨーク行ってくるわといった時の驚き用と言ったら忘れようにも忘れられない。。
PS…他の都市ではなく、最終的にニューヨークを選んだ理由もいくつかあるのですが、
ここまで書くだけで相当長くなってしまいましたので、続きは次回更新したいと思います。
どれだけの人が最後まで読んでくれたかわからないですが、自分自身の備忘録も兼ねているので、最終日までシリーズ化してできるだけ詳細に記していこうと思っていますので、是非更新を楽しみにしていただければ幸いです。
『ニューヨークを選んだ理由と恐ろしい円安』に続く










