鍼治療における最適な置き鍼時間とは?

2024.08.22

置鍼について
目次
院長の富本 翔太

こんにちは、豊中市のほまれ鍼灸院の富本です。

今回は最適な置鍼時間について色々と私なりの考えなどについてまとめてみたいと思います。

置鍼(ちしん)

置鍼時間の最適解は?

鍼灸治療を受けたことがある方なら、一度は耳にしたことがある言葉かと思います。

その名の通り、身体に刺した鍼を一定時間そのままにして置いておく鍼治療の一つのテクニックです。

置鍼しない院も中にはありますが、非常に多くの院が施術の方法として取り入れている最もポピュラーな方法です。

多くの鍼灸師が一つの手法として採用しているだけあって、置鍼には間違いなく確かな効果があるのですが、一方で、どのくらいの時間置鍼すると効果が最適になるのか?逆にどのくらいの時間であれば置鍼してもしなくても一緒なのか?といったように、置鍼時間の最適解は皆わかっているようで、わかっていない部分が多い問題でもあります。

今回は、そもそも置鍼とは一体何か?といった置鍼の効果についてから始まり、置鍼のメリットデメリットや、最適な置鍼時間について私なりの考えについてまとめてみました。

鍼治療受けてみるか検討

鍼治療を受けてみようかどうか迷っている。。

なんで毎回治療時間が違うの?

今、鍼治療に通っているけど、毎回治療時間が一定ではないのはどうして??

上記のような疑問をいただいている方にとって参考になる点が多数あるかと思いますので、是非最後までお読みください。

置鍼とは

置鍼とは17種類ある鍼治療のテクニックのうちの一つです。

鍼灸師は単純に鍼を身体に刺すだけでなく、鍼を刺す際に、鍼を左右に回しながら進めたり、鍼を刺した周囲に刺激を加えたりと様々な手技を行なっています。

鍼治療の基本17手技一覧

  • 単刺術
  • 雀啄術
  • 間歇法
  • 屋漏術
  • 振せん法
  • 置鍼法
  • 旋撚術
  • 回旋術
  • 乱鍼
  • 副刺激法
  • 示指打法
  • 随鍼術
  • 内調術
  • 細指術
  • 管散術
  • 鍼尖転移法
  • 刺鍼転向法

それぞれについて細かく解説していると、長くなりすぎてしまいますので、解説はまた別の記事で行うとして、置鍼は、この17つの分類の中でも最も頻繁に用いられる手技であり、多くの鍼灸師が施術の際の一つのテクニックとして毎日のように患者様に行なっています。

置鍼すると何が起こる?

置鍼している間、鍼が刺さっている筋肉は常に外部からの刺激を受けている状態であり、鍼が刺さっている間は常に筋肉が収縮と弛緩を繰り返しています。

置鍼中、筋肉は収縮と弛緩を繰り返している。

神経は筋肉の中や、筋肉と筋肉の間を走行していることから、鍼によって筋肉が収縮すると、その周囲にある神経にも刺激が及び、その際に我々の脳ではズシンとした鍼独特のあの響きの感覚を感じています。

鍼をどのくらいの時間置いておくのかは鍼灸師それぞれの考え方によって様々ですが、大体10分〜30分程度置くのが平均です。

筋肉も収縮と弛緩を何度も繰り返しているうちに、次第と緊張が緩んできます。

筋緊張が緩むということは、すなわち響きの感覚を出していた神経への刺激も落ち着くことから、ある一定の時間を超えたあたりから、置鍼中のズシンと響く感覚は無くなったり薄れたりします。

そのような変化が現れた時が鍼を抜くタイミングと考えられます。

置鍼時間の目安は?

鍼灸師として毎日仕事をしていると、置鍼には確かな効果があることは間違いないと感じるのですが、では、どのくらいの置鍼時間が最も高い効果を引き出してくれるのか?

実はこれはわかっているようで、わかっていない問題なのです。

ネット上を調べてみると、以下のような情報をよく目にします。

匿名の人

30分以上置鍼する。長い置鍼の方が効果的。

匿名の人B

置鍼時間は長くすればいいものではない。15分程度で十分。

なぜ、このように言われているのでしょうか?

それぞれの理由について見ていきましょう。

中医学的には30分で気が循環する

鍼灸治療は古代中国で発祥しました。

鍼灸治療は古代中国で発症しました。

現代では、鍼灸治療に関する様々な研究が進み、古代から続く方法であっても、『これは効果がある』、『これは効果がない』といったように情報の取捨選択が行われていますが、(氣)という概念もそのうちの一つです。

最近、有名俳優がスピリチュアルな鍼治療を受けに行った感想をSNSに投稿してバズっていましたね。。

鍼治療によって氣づきを得たようですが、スピリチュアル丸出しな投稿で、一部のファンからは、『これ以上スピらないで』なんてコメントもあったようです。。。

この投稿で窪田さんも使用している氣の文字ですが、これは中国医学で使われている漢字です。

中医学では、氣と血と津液(しんえき)の3つの物質が体内を循環していると考えます。

氣、血、津液は生命活動に必要なエネルギー源と考えられています。

身体の状態が良い時は、気は体内をスムーズに循環しています。

何らかの理由によって、気の流れが滞ってしまった場合に病が発症すると考えられています。

鍼灸治療は、これらの物質が滞っている場所に鍼をすることで、その流れの滞りなどを解消する効果があると考えられており、元々はそれを目的に実施されていました。

これらの物質は1日で全身の中を50回循環すると考えられており、一日24時間=1440分ですから、1440÷50=28.8で、気が体内を循環するのに約30分必要との考えから、置鍼時間についても30分ほどが最適と考えられているようです。

気が循環する

中医学的な治療を行っている鍼灸院では、置鍼時間が長い場合が多く、30分から中には1時間くらい置鍼する院も珍しくありません。

WHO的には15分以上の置鍼はどれだけ長くしても無駄

30分置鍼すると、体内で気のじゅんか、、失礼、氣の循環が良くなると聞くと、

長く置鍼した方がお得じゃん!

なんだ!どうせやるなら長く置鍼した方がお得じゃん!

と思ってしまいそうになりますが、WHO(世界保健機構)は鍼治療の置鍼時間に関して、『置鍼時間は15分程度が効果的であり、それ以上どれだけ置鍼しても効果に変わりはない』としています。

置鍼時間に関する論文を読んでみても、長く置鍼すればするほど効果が高くなるといったような結果は出ていないようです。

海外で行われた一つの研究では、鍼治療の効果の有効性は鍼をとどめておく時間に依存しない可能性があるとも発表されています。

以下、Acupuncture in Oncology: The Effectiveness of Acupuncture May Not Depend on Needle Retention Durationより引用。

There were significant improvements from preintervention to postintervention for depression (P < .001), stress (P < .001), fatigue (P < .001), and QOL (P < .001) 6 weeks postintervention but no significant effects on anxiety (P = .072). There were no overall significant differences in anxiety, depression, stress, fatigue, and QOL between the 3 groups postintervention (Table 3). Subgroup analyses were conducted to compare differences between each group (2 vs 10 minutes, 2 vs 20 minutes, and 10 vs 20 minutes). In a subgroup analysis comparing the 2- and 10-minute groups, the latter intervention group showed a significant reduction in fatigue (P < .05) and improvement in role function (P < .05) compared with the 2-minute intervention group, whereas there were no differences in other outcomes. In a comparison between 2 and 20 minutes, anxiety (P < .05), fatigue (P < .05), role function (P = .01), and QOL (P < .05) were significantly improved in the 20-minute intervention group compared with the 2-minute intervention group. However, there were no differences in any outcomes between the 10- and 20-minute intervention groups.

↑こちらの研究では癌患者のストレスや不安、疲労といった症状に鍼治療がどのくらい効果をもたらすのか、短い置鍼時間と長い置鍼時間とで効果に違いがあるのか比較していますが、2分の置鍼時間と10分、20分の置鍼時間では効果に大きな違いがあったようですが、10分の置鍼時間と20分の置鍼時間には大きな違いがなかったと記載されています。

その他、置鍼=retaining needleと検索欄に入力し、一般的なウェブサイトを調べてみても、『10分から長くて15分程度の置鍼を行う』と記載されているのが多い印象を受けます。

↓以下はアメリカのカイロプラクティック院のHPからの引用です。アメリカなどの諸外国では伝統的な鍼灸治療といった考え方ではなく西洋医学に基づいた考え方で理学療法士などがドライニードル、つまり鍼治療を行なっているのが普通です。

During your treatment, needles can be placed superficially or deeply, depending on the type of pain being addressed. Also, the length of time that the needles will be left in will vary. For simple relief, the needle may only be inserted for a few seconds. For deeper pain, the needles can be left inserted for 10 to 15 minutes.

置鍼時間もそれぞれで異なる。簡単な痛み(表在痛)であれば数秒置鍼するだけだが、深部の痛みの場合は10分から15分程度置鍼すると記載されています。

日本の鍼灸院のウェブサイトだと、中医学的な考え方をしている院が多いのか、30分くらいの置鍼時間を設けると記載されているのが多い印象でした。

是非みなさんも自分で調べてみてください。

ということは、世界保健機構が言っている『15分以上置鍼しても効果に違いはない』というのは間違いないのではないか、、、

あ、あああの世界保健機構が、、、

や、ややっぱり、せせせ、せ世界保健機構が言っているんだから間違いないだろう。。。

世界保健機構という名前に権威性を感じて、このように思う方も少なくないかと思いますが、そんなことを言ってしまうと、そもそもWHOで鍼治療が有望であると結論づけているのは、臨床の現場において鍼灸の効果が明らかに出ている疾患は含まれずに、吐き気、嘔吐、妊娠中のつわり、歯の術後の痛みといったものだけになるので、個人的にはあくまでも目安程度に受け取るのがちょうど良いのではないかと思います。

個人的な感覚としては、20分の置鍼時間よりも30分置鍼した場合の方が、治療効果が高いように感じているのですが、世界保健機構さんは現時点ではこのように結論づけているようです。

置鍼しない手法も多くある

ここまで置鍼の効果や最適な時間について見てきましたが、世の中には置鍼しない鍼治療のテクニックも存在します。

置鍼しないことで知られている代表的なテクニックは以下の二つです。

  • トリガーポイント
  • ドライニードル

鍼治療に興味がある方であれば、名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?

置鍼しない手技も沢山ある。

トリガーポイント

トリガーポイントとは、その名の通り、痛みを引き起こす場所(トリガーポイント)を鍼で刺激する手法です。

主に運動器疾患に対しての治療で用いられる手法であり、多くの鍼灸院が施術の一環として取り入れています。

多くの場合、『痛み』とは単なる結果であって、本当の原因(トリガー)は痛みのある場所とは別の場所にあることが多く、その原因となっている場所の筋緊張などを緩める目的で鍼治療を行うのがトリガーポイント鍼治療です。

トリガーポイント鍼治療では置鍼する場合もありますが、鍼を刺してその場で鍼を上下に動かす雀啄(じゃくたく)という刺激を加えたり、鍼を深い位置にまで進める際に、左右もしくは一方向に捻りながら鍼を進める、回旋法や捻鍼法といった短時間で済む刺激を行う方法が多いです。

鍼治療の実際の様子

ドライニードル

ドライニードルはトリガーポイント鍼治療の一環であると考えられていることが多い手技です。

痛みを抱えている部位にドクターが注射鍼で生理食塩水を注入することによって、その場所に存在していた筋肉や筋膜、靭帯などで形成されていた癒着を剥がす手技がありますが、生理食塩水などを用いずとも、ただ単純に鍼を刺すことでも十分効果のある刺激を得ることができることがわかって以降、欧米諸国で実施されるようになってきた鍼治療のテクニックです。

注射針で液体を注入することをウェットニードルと呼ぶことから、液体を用いずに単に鍼を刺すだけの手技をドライニードルと呼びます。

置鍼しなくてもなぜ効くの?

鍼治療の効果は置き鍼の効果によるものだけではありません。

鍼治療の効果の理由の一つに軸索反射があります。

鍼をすると、鍼が刺さっている周囲の皮膚が赤くなる反応が見られることがありますが、これを軸索反射(じくさく)と言います。

軸索反射の様子

↑実際の軸索反射の様子です。

簡単にいうと、鍼の刺激が脊髄や脳といった中枢の部分に到達する前に、抹消の部分で血流が良くなる反射が起こるのですが、これを軸索反射と言います。

この反射が目で見て明らかにわかるタイプかそうでないかは、患者一人一人の体質によっても変わるので、目で見えなくても問題ないのですが、反射という言葉の通り、この反応は鍼をしてからすぐに現れる反応であり、置鍼しない場合でも見られます。

即時的に血流が良くなることから、血流が悪くなって痛みが出ている場合は、置鍼せずとも明確な効果が期待できます。

反射なので当然といえば当然ですよね。

画鋲を踏んだ時に足が飛び上がるのも、熱湯に触れた時に指を引っ込めるのも全て反射であり、考える間も無く身体が勝手に反応するのが反射です。

ただし、トリガーポイントやドライニードルといった置鍼しない(置鍼するにしても非常に短い時間)主義であっても、実際のところは形の違いこそあれど、多少の置鍼は行っている場合がほとんどです。

なぜ多くの場合、鍼灸院では置鍼を行うのでしょうか?

それは置鍼することによって、施術者と患者の両者にとってメリットがあるからです。

置鍼による患者側のメリット、デメリット

置鍼には術者側、患者側の双方にメリットがあります。

ただ、メリットがあるからにはデメリットもあるので、それぞれ順番に見ていきましょう。

まずは患者側のメリットから。

患者側のメリット

患者側の1番のメリットはなんと言っても治療効果の増大でしょう。

治療効果の増大

患者とは、つまりどこかしらに痛みや不快感を抱えているが故に鍼灸治療を受けに来ているのですから、一回の治療で最大の効果を得たいと考えるのが普通です。

先述したように、中医学的な気の考え方も考慮するのであれば30分の置鍼時間が有効だと考えられているのですから、どうせなら置鍼するなら短い時間ではなく、30分したほうが良いのではないかと思うのが当然でしょう。

繰り返しになりますが、一施術者として思うことは、置鍼には明らかに効果があります。

鍼灸師として施術を行う側から見ても勿論ですが、患者として治療を受ける場合であっても一定の時間、置鍼をしてもらった後の方が、コリを感じていた筋肉がほぐれて身体が楽になった感覚を明確に感じることが可能です。

ただし、30分かそれ以上の置鍼を行うことにはデメリットも存在するのです。

置鍼による患者側のデメリット

置鍼による患者側のデメリットは大きく以下の二つです。

  • 刺激増による治療後の倦怠感
  • 地震などの災害によるアクシデント

1番のデメリットは、治療後の倦怠感です。

置鍼が長いと倦怠感が出やすくなる

俗に好転反応とも呼ばれる、施術が終わってから数時間〜数日の間に見られる筋肉痛のような、鍼をした場所に現れる独特の怠さが、置鍼時間が長いほど現れやすくなります。

好転反応の大なり小なりは置鍼時間だけによって決まるわけではないので、一概に、長い置鍼時間=好転反応が強いというわけでもありませんが、5分の置鍼と30分の置鍼であれば当然30分置鍼したほうが反応が出やすくなります。

一般的に、鍼をした後に多少の鈍痛や痛みの再現が現れるのは決して異常な反応ではなく、珍しくもありませんが、置鍼時間が長くなればなるほど、その反応が出やすくなるのは確かです。

地震などの災害によるアクシデント

もう一つ考えられる大きなデメリットは災害でしょう。

災害と書きましたが、台風や大雨などは事前に予想することができますが、地震はいつ何時発生するか誰にもわかりません。

地震のイメージ図

置鍼中に地震が発生しないという確証はどこにもありません。

置鍼している時に、地震が起きた場合、周囲の何かが倒れてきて、鍼の上に覆いかぶさったりすると、必要以上に鍼の深度が進んでしまって、筋肉や内臓を痛めてしまう可能性があります。

『発生するかどうかわからない事象に対して必要以上に心配するのは無駄』と考える人もいるかもしれませんが、鍼を置鍼するのであれば、少なくとも頭の片隅に置いておく必要があることは間違いありません。

マッサージや整体を受けている際に地震が発生したとしても、それによっての必要以上の被害は出ないでしょうが、鍼治療で置鍼をする場合は、安全管理に十分気をつける必要があります。

治療院側のメリット、デメリット

治療院側にもメリットとデメリットがそれぞれあります。

まずは治療院側における置鍼のメリットから見ていきましょう。

治療院側の置鍼のメリット

治療院側から見る置鍼を行うメリットは大きく分けて以下の3つです。

  • 治療効果。
  • 同時進行で複数人の治療ができる。(重要)
  • 手技が比較的簡単。(超重要!)

治療効果

治療効果については先述した通りです。

一定時間の置鍼を行うことで、刺してスグに抜く単刺と呼ばれる方法よりも高い治療効果が期待できます。

(繰り返しになりますが、置鍼だけが治療の手技ではありません。置鍼を行わない院でも高い治療効果を出している治療院はあります。)

同時進行で複数人の治療ができる

同時進行で数人の治療ができるのは、治療院側からすると非常に大きなメリットの一つです。

鍼を15分なのか20分、30分置くのかは、その鍼灸師の治療の考え方次第ですが、いずれにせよ、置鍼している間に、もう一人同時進行で治療を行うことができます。

当然といえば当然ですが、鍼灸院の売上は鍼灸治療を受けにくる患者さんから頂く治療費がほとんどですから、できる限り多くの患者を診たいと考えるのが当然です。

置鍼を取り入れることで、複数人の治療を同時進行で進めることができれば、治療院側としては経営的にメリットは多数あります。

加えて、これは治療院側だけのメリットのようにも思えますが、実は患者側から見ても大きなメリットでもあります。

同じ時間に複数人の治療を行うことができるということは、つまり自分が治療院に行きたい時間の予約が取りやすくなるということでもあります。

予約が取りやすくなるのは大きなメリット

一般的に、整体院や美容院であれ何であれ、人気のあるスタッフというのは予約が埋まりがちですよね。

鍼灸師でも同じ現象がよく起きますが、一対一で付きっきりで施術を行う必要がある整体や美容院に比べて、置鍼を取り入れている鍼灸師であれば、同じ時間に複数人の予約を受け付けることができますから、患者側としても受診したいのに予約が取れないという状況が起こり難くなります。

手技が比較的簡単な点

置鍼を行う、もう一つのメリットが置鍼は非常に簡単ということです。

驚く

え?そんなに高い効果が期待できる方法なのに簡単にできるの?

このように思われる方もいるかもしれませんが、置鍼が簡単なのは考えてみれば当然です。

一旦、体内に刺入した鍼を特に操作も加えずに、そのまま置いておくだけなのですから、特に技術は必要とされません。

難しいのは、置鍼そのものではなく、置鍼する前の、鍼を体内に刺す瞬間であり(皮膚を貫く際のチクッとした痛みが出ないようにする)、刺した鍼を体内に進めていく操作の方です。

『切皮→弾入→進める』の操作が終われば、後は鍼を置いておけば勝手に緊張した筋肉が緩んでいくのですから、置鍼はある意味、非常にコスパの良い手技の方法の一つと言えます。

治療院側のデメリット

治療後の倦怠感(いわゆる好転反応)が出やすかったり、地震の心配など、主に患者側から見たデメリットは治療院側から見てもデメリットなので、それ以外の点を挙げるとするならば以下のようになります。

治療院側から見た置鍼のデメリット

  • 治療時間が長くなる
  • ベッドが埋まりやすくなる(スタッフが複数いる場合)

上記二つのデメリットを簡単にまとめていうと、スタッフが多い鍼灸院で多くの患者を捌く場合、置鍼時間を確保することによって、ベッドが埋まりやすくなるという点が言えます。

一人もしくは数人で営業している場合はあまりないですが、大勢のスタッフがいる場合、置鍼時間を長く取れば取るほどベッドを占有する時間が長くなってしまいますので、結果として1日で見れる患者の数が減ってしまいます。

1日で診れる患者の数が減る=収益減ですから、治療院側から見ると大きなデメリットとなりうるでしょう。

まとめ

ここまで、置鍼の効果や置鍼のメリットデメリット、最適な置鍼時間について色々と考えてきましたが、結論を端的にまとめると、『置鍼に確かな効果があることは間違いないが、どのくらいの時間、置鍼するのかが最適なのかは、患者さん一人一人の状態によって違うので一概に決めつけることはできない。』といった、まるで政治家のような雲を濁す答えになってしまうのが現時点での結論でしょうか。

個人的には、治療効果という観点から考えると25分〜30分ほど置鍼するのが効果的なのではないかと考えております。

筆者が弟子入りした実用鍼灸治療学の著者であり、二天堂鍼灸院の中野先生は患者様によって多少の違いはありますが、多くの場合30分以上の置鍼時間を確保しており、中国鍼で有名な北京堂鍼灸院の本院では全ての患者さんに35分の置鍼を行っています。

筆者は、どちらの鍼灸院でも患者として治療を受けたことがありますが、両者ともに確かな治療効果を感じることができました。

ただし、治療後の一時的な倦怠感がそれなりに出たことも事実です。

筆者の北京堂鍼灸院の体験記については北京堂総本山で北京堂創始者の淺野周先生の鍼治療を受けてきた件をご覧ください。

太い鍼を多数使う北京堂鍼灸院の治療の後、しばらくは靴を履くために身体を前屈みにするのも辛かった印象があります。

北京堂鍼灸院ほど太い鍼を使用しない二天堂鍼灸院の治療後は、同じくらい置鍼時間を確保されていたにもかかわらず、それほど治療後の倦怠感を感じなかったので、治療後の倦怠感は置鍼時間による影響だけではないことがわかりますね。

大体、最初に説明したように置鍼はあくまでも17種類ある鍼治療を行う際の手技の一つです。

置鍼を行わない場合は、他の16種類のうちいずれかを用いたり、電気治療を組み合わせたりすることで、総合的に刺激量を調整することが可能です。

鍼の刺激方法は何も置鍼法だけに限られているわけではありません。

いずれにせよ、その時その時の患者様の症状や状態に合わせて、最適な鍼と置鍼時間を見極めて治療することが最も大切なポイントであり、現時点でわかっている最適な置鍼時間に対する答えではないでしょうか?

当院では基本的に置鍼時間を考慮して予約枠を確保していますが、その日の痛みの程度や状態を確認して、置鍼する必要がないと判断した場合は治療時間が10分程度で終わることも少なくありません。

もちろん、置鍼中の鍼の響きが好きな方も沢山いますので、そのような方に対しては長めの置鍼時間を確保したりと、一人ひとりの状態やニーズに合わせて施術を行なっています。

以上が、私の考える最適な置鍼時間についての結論です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

大阪府豊中市で鍼灸治療を受けてみようか検討している方は是非一度ご連絡ください。

ほまれ鍼灸接骨院院長 富本 翔太

この記事を書いた人